今更聞けない事業再生のいろは 後編

BDOアドバイザリー株式会社 シニアマネージャー・認定管理会計士  大野 憲一
(三優ジャーナル2024年4月号)


はじめに 
 前回、事業再生の変遷・推移や再生手法の基本的な種類について概略を述べ、その中で、事業再生の基本形は、「自力再生」、「私的整理」である事を説明しました。今回はこの自力再生型の私的整理のうち、「準則型の私的整理手続き」の一般的な進め方と各工程で必要な活動等、並びに各ステップでの着眼点等につき、平易な記述を試みたいと思います。

準則型の私的整理手続きの主流 
 「準則型の私的整理手続き」は、中小企業活性化協議会や事業再生ADR、中小企業の事業再生等に関するガイドライン等、様々なルールが公表されていますが、これらの基本となるのが「私的整理に関するガイドライン」であり、他のルールは、これを元に改変されたものです。しかし、前回指摘致しましたが、当ガイドラインの実際の適用件数は少なく、案件数で言いますと中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)の再生計画策定支援(二次対応)が圧倒的に多いのが実情です。

中小企業活性化協議会の再生計画策定支援 
 中小企業活性化協議会(以下、協議会)の再生計画策定支援(以下、二次対応)とは、協議会がプロジェクトマネージャーとして債務者の計画策定を支援し、事業再生を行うスキームです。私的整理に関するガイドラインでは、債務者と主要金融機関が主体ですが、協議会スキームは債務者と協議会が主体となる点が異なります。裁判所のような強制力はないものの、国の機関としての中立性、信用力を背景に、提案・調整を通じて金融支援を取りまとめます。二次対応という呼称は、幅広く債務者企業の相談に応じる一次対応と区分する為にそのような呼び方をしていますが、ここでは協議会の説明は割愛致しますので、関心のある方は中小企業庁のHPをご覧下さい。
二次対応は、①相応の事業収益見込、②メインバンクの支援意向、③経営者の強い再生意欲と決意、④債務者企業の地域経済に対する影響力等を総合的に勘案して決定します。そして、想定再生スキームとスキームに合致した外部専門家(公認会計士、税理士、中小企業診断士、弁護士、不動産鑑定士等)を決めた後、以下のステップで進められます(但し、地方によっては若干異なります)。
①第一回バンクミーティング開催
②現状分析の実施、事業再生計画案策定
③第二回バンクミーティング開催
④金融機関からの質問回答、金融支援調整・再提案
⑤事業再生計画案の金融機関からの全行同意
多少の相違はあるものの、他のスキームも概ね上記のステップで進められますので、こちらに基づき各ステップの内容等につき説明します。

各ステップにおける内容 
 まず再生スキーム選定ですが、前回、事業再生を行うメリットとして債務者側は金融支援、債権者側は回収可能性と一定の要件を満たす再生計画の同意による債務者区分のランクアップである事を述べました。金融支援は、①リスケジュール、②DDS(デットデットスワップ:資本性劣後ローンに振替える事で、決算書上の表示は借入のままですが、査定上、当該振替額を資本と見做せるローン)、③DES(デットエクイティスワップ)、④スポンサーによる資本注入、⑤プレDIP、DIPファイナンス(計画策定期間中、計画実行時に新規融資を行い、他の借入よりも優先して返済を受けられるローン)、⑥債権放棄等があり、これらを組み合わせた金融支援提案を行いますが、どの組み合わせでいくかは、債務者区分をランクアップする為の“一定の要件”を満たす為に必要な支援は何か、という視点で決めます。ここでいう“一定の要件”とは、
・実抜計画
・合実計画
の二つです。実抜計画は、“実現可能性の高い、抜本的な計画”、合実計画は、“合理的で実現可能性の高い計画”の略称です。これらは以下の用語に分解します。
①    実現可能性の高い計画
②    抜本的な計画(大企業が債務者)
③    合理的な計画(中小企業が債務者)
①は、ⅰ)全ての取引金融機関において、計画に基づく支援が正式な内部手続きを経て合意され、文書等で確認できる、ⅱ)再生計画における費用、収益の見積もりが相当程度厳しい、ⅲ)金融支援の内容が、金利減免、融資残高維持等に留まるか、債権放棄等を伴う場合は、計画開始後に追加的な支援が必要でない事、及び損失予想額につき全額引当されている事、を満たした計画、②は、a)実質債務超過が3年以内に解消され、b)3年以内に経常利益が黒字となり、c)債務超過が解消された年度において、有利子負債がCFの10倍以内である計画、③は②の要件のうち、a)の3年を5年に延長した計画です。従いまして、支援案の選定は、抜本要件・合理要件を満たす為に必要な内容で、かつ金融機関の同意の可能性が高いかを中心に検討します。
 専門家の選定は、再生スキームの軽重により変わります。リスケジュール中心の計画は比較的軽微であり、税理士、診断士中心の選定ですが、債権放棄を伴う重いスキームの場合は、公認会計士、診断士、弁護士、不動産鑑定士が選定されます。債権放棄となる場合、正式な不動産鑑定が要求されるので不動産鑑定士は必要です。
 次に第一回バンクミーティングですが、ここでは、①債務者挨拶、②自己紹介(金融機関、外部専門家)、③バンクミーティングを開催するに至った経緯、④今後のスケジュール、⑤計画策定期間中の残高維持要請、が主たる内容です。開催趣旨は、利害関係者が一堂に会する事で債権者に安心感を与え、また、スケジュールの発表で彼らが今後どう動けば良いのか見通しがつく事です。残高維持は、債務者の資金繰り支援という意味合いもありますが、より重要なのは借入弁済提案の策定上、必要だからです。通常、弁済案は各金融機関の一時点における残高割合、または信用割合(担保・保証を除いた裸与信額)に基づき算定するのですが、弁済が行われていると残高が動く為、算定できないからです。
 現状分析は財務・事業DDが中心ですが、M&Aの財務DDより範囲が広いのが特徴です。窮境企業は多かれ少なかれ粉飾調整を行っているので、実態貸借対照表は特に重要ですが、その他にも正常収益力算定、窮境原因の特定と除去可能性検討、金融取引状況と保全一覧、清算貸借対照表、資金繰り分析、税務リスク調査等通常の財務の範囲を超えた内容です。事業DDは、外部環境調査、ビジネスモデルや経営資源の状況等の内部環境調査により、潜在的な収益改善力を見極め、所謂SWOT分析にまとめますが、こちらを前提に再生計画案が策定されます。因みにこの現状分析の報告会として中間ミーティングを開催するケースもあり、外部専門家と金融機関だけで行います。債務者に報告し難い事項もある為、金融機関に微妙なニュアンスを共有するのが目的ですが、微妙な事項については口頭で報告します。
 第二回バンクミーティングは、債務者、外部専門家、取引金融機関が参加し、現状分析、及び再生計画案につき報告し、質疑応答と当該計画案についての同意・不同意の表明期限について取り決めます。当日に質問が来ることはあまりないので、一定期間を設けて質問を受け付けます。実際には、プロジェクト開始時にメインバンクと金融支援案につき目線合わせをし、金融機関の顔ぶれを見ながら、同意しそうな案を提案しますが、私的整理の為、期限時点で不同意の機関が1行でもあれば、計画不成立となりますので、これを防ぐべく、協議会は各行に個別打診をし、調整提案を行って1本の案に収束させます。
 最終的に、同意が得られた時点で再生計画案は正式計画として成立します。

最後に 
 以上、自力再生かつ準則型の私的整理手続きのステップにつき説明を致しましたが、イメージが少しでも湧きましたら幸いです。