「経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題への対応:第一の柱」の進捗状況

1 . はじめに 
 「経済のデジタル化に伴う国際課税上の課題」に対して、OECD/G20「BEPS包括的枠組み」(以下、インクルーシブフレームワーク、略してIFとする)は、2019年6月に「経済の電子化に伴う課税上の課題に対するコンセンサスに基づく解決策の策定に向けた作業計画」を公表し、① 市場国に対し適切に課税所得を配分するためのルールの見直し(Pillar1)、② 軽課税国への利益移転に対抗する措置の導入(Pillar2)という2つの柱からなる解決策について検討することに合意した。その後、2019年から2021年にかけて、作業部会がこれらの2つの柱についてそれぞれ検討した内容及び解決へ向けての提案書がOECD事務局から提示され、2020年1月にIFがこれらの提案に基づくアウトラインについて合意し、同年10月に残る政治的・技術的な論点等を整理したブルー・プリントが公表された。その後作業部会は解決策をより具体化する段階に進み、そのうち第二の柱に関するものは「PillarTwo;Global Anti-Base Erosion(GloBE)Rules」(以下GloBE Rules)モデル・ルール¹が2021年12月に、その解説書(Commentary²)は2022年に初版が公開された。その後も追加項目等について改訂手続が行われ、実施パッケージ³が2023年2月にIFにより承認された。BEPS参加国の一部では2023年からGloBE Rulesを自国の税制に導入するために税制を改正しており、日本でも2023年度税制改正において国際最低額課税制度として当該ルールを導入した。今回は、もう一つの柱である第一の柱に関する状況を報告する。

 第一の柱は、通常の利益とされる一定額を超える利益を超過利益とみなし、その超過利益の一部の課税権を、物理的プレゼンスに依存しない新たなネクサスの概念に基づき市場・国に配分する。これにより子会社・支店がない国地域であっても、収入の源泉がある市場国では一定の利益に課税が行われることになる。また、二重課税を防ぐための強力な紛争予防・解決メカニズムの導入も検討されている。第一の柱の実施パッケージでは、市場国に配分される超過利益である「Amount A」と基礎的活動にかかる利益「Amount B」について整理し、二重課税を調整するための多国間条約案を提案することが予定されている。

 OECD事務局は、2022年2月から6月にかけて数次にわたり、第一の柱のAmount Aの範囲に関する国内法令のモデル・ルール案⁴、規制金融サービス、採掘業等特定業種の適用除外⁵、税の確実性⁶、Amount Aに関する検討進捗報告⁷に関するパブリックコメントを募集した。また2022年12月にはAmount Bの主要な設計要素に関する諮問文書⁸及び第一の柱に基づく「デジタルサービス税及びその他の関連する類似の措置に関する多数国間条約案」⁹についてもパブリックコメントの募集を行った。2023年6月における本稿執筆中においては、これらのパブリックコメント募集のためのベースとなる文書及び各界から寄せられたパブリックコメントは、OECDホームページ上で閲覧できるが、最終的な実施パッケージのための報告書は公開されていない。
 この稿では、Amount A、Amount Bに関するパブリックコメント募集に対して、BDOグローバルが提出したパブリックコメントをもとに、現時点でのこれらのアウトラインを確認する。

 2008 年より内部統制報告制度(通称:J-SOX)が導入され、10 年以上が経過しました。本連載では内部統制について、事案に基づきその本来的な役割や経営・管理への役立ちについて考えていきたいと思います。                                       


1 OECD(2021),Tax Challenges Arising from Digitalisation of the Economy – GlobalAnti-Base
Erosion Model Rules(Pillar Two):Paris, https://doi.org/10.1787/782bac33-en.
2 OECD(2022),Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy – Commentary
to the GlobalAnti – Base Erosion Model Rules(Pillar Two),First Edition:Paris,https://doi.
org/10.1787/1e0e9cd8-en
.
3 https://www.oecd.org/tax/beps/agreed-administrative-guidance-for-the-pillar-two-globe-
rules.pdf

4 https://www.oecd.org/tax/beps/public-consultation-document-pillar-one-amount-a-nexus-
revenue-sourcing.pdf

5 https://www.oecd.org/tax/beps/public-consultation-document-pillar-one-amount-a-scope.pdf
6 https://www.oecd.org/tax/beps/public-consultation-document-pillar-one-amount-a-tax-
certainty-framework.pdf

7 https://www.oecd.org/tax/beps/progress-report-on-amount-a-of-pillar-one-two-pillar-
solution-to-the-tax-challenges-of-the-digitalisation-of-the-economy.htm

8 https://www.oecd.org/tax/beps/public-consultation-document-pillar-one-amount-b-2022.pdf
9 https://www.oecd.org/tax/beps/public-consultation-document-draft-mlc-provisions-on-dsts-and-other-relevant-similar-measures.pdf

 

2 . パブリックコメント募集時のAmount A、Amount B、多数国間条約案に関するベース文書からみる概要
 (Amount A)
 2022年7月に公開されたAmount A進捗報告文書では、それまでに公開されたベース文書とそれに対する各界からの意見を基に、Amount Aに関する課税の概要を、① 多国籍企業グループの売上高と税引前利益率により対象企業を定め、② この文書の他の項目で検討された定義・要件に基づき計算される所得・利益について法人税(所得税)を課税する旨、③ 課税要件の一つをNexusテストとし、④ 収入の源泉(Revenue Source、以下「RS」)ルールを確認し、⑤ 多国籍企業グループの合計利益の一部を、収入の源泉(RS)がある国に課税対象所得として配分するルールと、⑥ 一定の条件を満たす国地域について免除方式により二重課税を排除する方法を検討している。
 具体的には、グループ全体での収益が200億ユーロ(20 billion Euro)を超え、税引前利益率が10%を超える多国籍企業が① の対象企業として扱われる。③ のNexusテストは、④ の収入の源泉(RS)ルールに基づき完成品・サービス等取引を類型化し、それぞれの類型別に適用される計算方法により市場源泉収入を計算する。その市場地域における年間市場源泉収入が100万ユーロ(1 million Euro)を超える場合にそのNexusテストを満たすこととなる。この時、当該地域のGDPが年400億ユーロ(40 billion Euro)未満である場合、100万ユーロに代わりに年間市場源泉収入25万ユーロ以上に課税権が認められる。
 ⑤ として配分される利益は、対象となる多国籍企業グループの税引前利益から10%を控除した残り利益のうちの25%が配分対象とされる。配賦基準は当該地域の市場源泉収入(RSルールによって計算された金額)の、そのグループの合計市場源泉収入額に対する割合によることとされている。
 ⑥ の二重課税排除の方法は、一定の要件を満たした場合の課税免除方式が採用されている。課税免除の要件は、市場地域における減価償却費の額・給与の額と当該市場地域における収入の源泉として計算された金額の割合等とに応じて4グループに区分した詳細な要件が検討されている。

 (Amount B)
 Amount Bは、Amount Aとは並列的に、多国籍企業グループ内の関連会社間取引のうち、基礎的なマーケティング及び販売活動(Baseline Marketing and Distribution Activities)から生じる利益について、納税者と税務当局との間の紛争を減らし、課税上の確実性を高めるために、IFが合意した価格決定プロセスにより計算された多国籍企業グループのその市場国における「利益」を意味する。したがって、Amount Bへの課税は、各国に移転価格税制が導入されていれば、その補完とされる可能性があるが、今回の諮問文書では、実施手段自体は、Amount Bの設計が完了した時点で決定されると述べられている。また、このAmount Bの対象となる多国籍企業グループは、Amount Aの対象とされる多国籍企業グループと異なり、グル―プの売上規模にかかわらず、そのAmount Bの対象とする取引(下記⑧ Amount Bが対象とされるもの(Scoping)参照)に該当する取引を有するものとされる。
 今回の「Amount Bの主要な設計要素に関する諮問文書」(以下「諮問文書」)の構成は、⑦Amount Bへの期待されているものと目標、⑧Amount Bの対象とするもの(Scoping)、⑨ 価格の算定方法、⑩ 文書化義務、⑪ 税の確実性、⑫ 別紙Aとなっている。いずれも、OECDの作業部会が検討した点について、関係団体(Public Commentator)にどのように考えるか?という問いかけを行う内容となっている。
 ⑦ Amount Bへの期待されているものと目標は、上記のとおり、税の確実性を高めること、多国籍企業と税務当局との間の手間と時間のかかる(Resource-Intensive)紛争を減らすこと、及び移転価格に関する実務対応について経験・リソースの低い国・地域でのニーズに対処することであると説明されている。
 ⑧ の対象取引については、多国籍企業グループ内の関連会社間取引のうち、基礎的なマーケティング及び販売活動(Baseline Marketing and Distribution Activities)にかかる関連会社間取引が対象とされている。ある国・地域で、関連会社が提供する商品・製品を販売する卸売業者、小売業者、または関連当事者に対する商品の卸売販売に貢献する販売代理店およびコミッショネアもこの諮問文書では対象に含まれている。この対象取引及び当事者の範囲については、⑨ の価格の算定方法の項で検討される機能、リスク、取扱い製品・商品等の項目とあわせて、このAmount Bで取扱う対象に含める範囲が検討されている。たとえば、「販売業者は、主に自らの居住地市場において販売しなければならず、他の管轄区域に所在する顧客から販売業者が生み出す年間純売上高が、年間純売上高の[X]%を超えない場合に限るべきか?」「販売業者は、その中核となる流通機能以外に、独立企業原則に基づいて報酬を与えられるべき経済活動を行ってはならないとすべきか?」などについて、公開意見が求められている。また販売業者は、OECD移転価格ガイドラインで説明されているユニークで価値のあるマーケティング無形資産の開発、強化、維持、保護または活用に関連する機能や、経済的に重要なリスクの引受・リスク管理機能を実行していないことが前提とされている。
 ⑨ の価格の算定方法には、TNMM(取引単位営業利益法)を最も適切な算定方法であると想定し、比較対象企業の選定のためのデータベースや検索基準等の「標準化」が検討されている。⑫ 別紙Aでは具体的にその標準化されたサーチ基準等も提案されている。⑩ 文書化義務についてはAmount BであってもOECD移転価格ガイドラインにおけるローカルファイルとして税務当局には提供されるべきである旨、⑪ 紛争の解決手段としては、一般的移転価格事案と同様に相互協議の対象となることが確認されている。

3 . BDOグローバルが提出したパブリックコメント(抜粋) 
 2022年7月のAmount Aに関する進捗報告書に対して、BDOグローバルは、複数の論点についてその提出したパブリックコメントの中で述べているが、その一つに収益の源泉(Revenue Source)ルールとAmount Aのアロケーションキー(配分基準)の簡素化の重要性を指摘している。また、Amount Aへの課税の免除方式の複雑さと、繰越損失の調整の必要性、BEPS行動13により各国の移転価格税制において提出が義務化されている国別報告書(CbCR)の国別利益との関連性についても今後明確化が必要とコメントしている。

 Amount B諮問文書へのBDOグローバルのパブリックコメントは、まず、Amount Bの価格算定方式にCUP法(独立価格比準法)が含まれていないことに疑問を呈し、サーチ基準の標準化について、実際に諮問文書別紙Aで例示されていたサーチ基準を検証し、特定の検索キーワードにより比較対象から対象外とした結果についての問題点を提供している。そのほかにも多くの論点について言及しているが、諮問文書におけるAmount Bに関する検討の状況を概観すると、以下の点を直接的、間接的に検討していることが窺え、Amount Bがこれらの要素を備えることにより、関連会社間取引の価格設定に関するセーフハーバーとしての性格を持つこととなるとコメントしている。
 • 適格性を決定するための明白かつ明確な規則
 • コンプライアンスの妥当な期待
 • 納税者が追加の税金や罰金の対象とならないことの妥当な水準の確実性
 • 監査又は訴訟からの合理的な保護水準
 • 法の遡及的変更からの合理的な保護水準
 今後、さらなる整理・検討により、Amount Bがセーフハーバーとして設計されるとすれば、関連会社間取引にかかる移転価格の検証を多国籍企業がCUP法又は異なるサーチ基準を適用して得られたより信頼性の高い比較対象取引をその検証対象取引にかかる移転価格とすることもできるであろうし、もし、Amount Bアプローチを好むのであれば、結果として独立企業原則と整合的であるという確実性をその見返りとして受け取ることになろうとまとめている。

4 . まとめ
 BDO税理士法人では、Amount AよりもAmount Bに関する影響度が大きい。引き続き、OECD/G20-IFの動きと税制改正の動向を注視していきたい。

以上