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  • 経営に効く内部統制 第6回
ジャーナル:

経営に効く内部統制 第6回

2021年11月 29日

アドバイザリー部 パートナー 公認会計士 本田 健生(三優ジャーナル2021年12月号)

はじめに
 2008 年より内部統制報告制度(通称:J-SOX)が導入され、10 年以上が経過しました。本連載では内部統制について、事案に基づきその本来的な役割や経営・管理への役立ちについて考えていきたいと思います。

今回のテーマ
 今回のテーマは「3つの売上」です。収益については「収益認識に関する会計基準」が 2021 年4月1日より開始する事業年度から原則として適用となっており、利害関係者に有用な収益に関する情報提供について議論されてきましたが、本稿では経営者や内部統制の観点から「売上」について考えてみたいと思います。

事案
 A社は鉄道の駅ホームや電車内で軽食や弁当、飲料の販売を行っている会社です。具体的には、鉄道会社の許可を得て下記事業を営んでいます。
  ⒜ 駅構内で店舗を運営し、鉄道利用客に対して消費財の販売を行う
  ⒝ 駅ホームにおいて店舗を運営し、鉄道利用客に対して軽食や飲料の販売を行う
  ⒞ 移動中の電車内において弁当や飲料、軽食の販売を行う
 ある日、A社の経理部長が当監査法人に売上の内部統制について相談に訪れました。相談内容は、上記のA社の事業のうち⒞の車内販売事業に関するものでした。
 A社では上記⒜、⒝及び⒞の事業について、それぞれ日次で売上の集計を行っています。⒜及び⒝の事業については店舗における POS システムにより売上の集計を行っていますが、⒞の車内販売では、各販売員が一人で車内販売を行うことから、販売活動の手間等を考慮して、各従業員に情報端末等を所持させず、販売した在庫数量に基づいて売上の集計を行ってきました。
 しかし車内販売においてもクレジットカード決済や電子マネー決済を望む利用者が増加しており、A社としても決済方法を多様化することにより売上の増加も見込まれることから、新たにクレジットカード決済や電子マネー決済の導入がA社取締役会で承認されました。そして決済端末の導入を契機に POS システムも導入されることとなりました。
 A社では現在、一部区間について POS システムの試験導入が行われていますが、ここで今回のA社経理部長の相談内容でもある問題が発覚しました。それは本来一致すべき ① POS により集計した売上と②売上現金を基に集計した売上が一致しないということでした。また、③販売前の在庫と販売後の在庫の差に基づく売上も上記①及び②と一致しない状況となっていました。
 A社経理部長は上記の状況から、どの売上を会社の正式な売上と考えればよいのかについて当監査法人に相談に来られました。

3つの売上の集計方法と差の原因
 A経理部長の抱える問題を解決するためには、まず各売上の集計方法の内容を把握する必要がありそうです。そこでそれぞれの売上の集計方法をここで確認してみます。

POS による売上の集計方法
 POS とは、Point of sales の略で、一般的には販売時点情報管理と定義されています。コンビニエンスストアにおける POS レジ端末が有名で、商品を販売する際に商品のバーコードを読み込むことにより、個別の販売された商品や時間が記録され、レジ端末に追加の情報を入力することで性別や年齢等の情報を記録管理することができます。A社では販売商品を車両に積み込む際に、販売員が事前に POS システムに在庫登録を行っています。また、販売員は販売時に、都度販売商品のバーコードを読み取ることで商品の販売登録を行っています。このようにA社では POS システムにより販売商品の内容や在庫の状況を管理しています。
 ただし、例えば販売員が車両に商品を積み込む際の POS 登録に漏れや二重登録が生じる可能性があります。この場合実際の売上と POS により集計した売上との間で差が生じる可能性があります。また販売時のバーコードの読み取り漏れや読み取り違いについては、お客様からのクレームにより発覚する可能性も高く、差額が生じる可能性は高くはありませんが、お客様が得をする方向(例えば、販売商品の読み取り漏れ)については実際の売上と POS により集計した売上で差が生じる可能性があります。

売上現金による売上の集計方法
 A社の車内販売では現在のところ、現金販売のみとなっています。車内販売を行う販売員は、車両に乗込む際に釣銭準備金を用意します。そして販売を終えて車両から降車する際に、販売員が所持している現金をカウントし、当初所持していた釣銭準備金を差し引いた金額を売上金として記録しています。
 しかしながらこのような売上現金による売上集計法は、販売員は原則として1名で車内販売を行っており、従業員間の内部牽制が効きにくい環境下でもあることから、販売員が売上金を着服し、結果として売上が過少に記録される可能性があります。当該横領は売上現金による売上集計方法と実際の売上の差の原因の一つといえます。またお客様への釣銭の渡し間違いも、結果的に実際の売上との差の原因になると考えられます。

在庫差に基づく売上の集計方法
 在庫差に基づく売上は、販売員が販売時に積み込んだ商品と、販売終了後に残った商品の差として販売済商品を特定し、当該販売済商品の売価累計を売上高の理論値とするものです。
 A社の車内販売事業においては、車内販売で積み込む商品の品揃えが統一化されています。車内販売後、各販売員は売れ残った商品を倉庫まで運搬します。倉庫では各販売員から受領した商品につき、消費期限を確認しながら車両ごとに販売された商品を補充し、次の車内販売のセットアップとします。その際の補充数量をA社では売上の理論値として集計しています。
 POS が試験導入される前は当該在庫差に基づく売上の理論値がA社の正式な売上とされていました。売上の記帳方法としては、上述②の売上現金に基づいて売り上げを記帳する方法も考えられますが、売上現金は販売員に横領される可能性もあり、在庫差に基づく売上と売上現金による売上を比較する方が、より実態の売上に近似すると考えられることから同方法が採用されていました。
 しかし、例えば乗客による商品の盗難があった場合、在庫が減少した分が売上としてカウントされることとなります(ただしこの場合、在庫差による売上と売上現金との差が生じることから、現金過不足が生じることとなります。当該現金過不足を売上の修正項目として会計処理している場合、結果的に売上は売上現金ベースの売上となるため、表示上の問題は生じません)。また当初の在庫のセットアップミスや車内販売終了後の検品の誤り等も売上差異の原因となる可能性があります。

最適な売上集計方法
 3つの売上集計方法をあらためて確認してみると、それぞれ長所と短所があり、またそれぞれが抱える固有のリスクも見えてきました。それぞれの売上の集計方法による金額の差が少額であれば、一定期間3つの方法を併用して差異原因をつめるといった方法も考えられますが、A社においては3つの売上の集計方法の差異金額が決して少額とは言えず、それが故、A社経理部長も悩んだ末に相談に訪れたのでした。
 そもそも、あるべき売上の集計方法というのはあるのでしょうか。A社の車内販売事業は若干特殊ですので、B to Bの商流が中心の一般の会社に置き換えて考えてみたいと思います。
 B to Bが中心の会社の場合、得意先より受注を受けると、受注登録を行うとともに仕入先へ発注、もしくは既存の在庫の引当を行います。そして出荷時においては受注登録データを基に作成された出荷予定データと出荷商品が倉庫で照合された上で、実際に出荷が行われます。これはA社でいう① POS データと③在庫データの照合に近い統制行為と考えられます。
 次に上記出荷商品は得意先では検品が行われます。出荷元では出荷予定データが請求データに変換され、当該データに基づき、通常は一定期間分を纏めて請求書の発行が行われます。そして請求金額が売掛金等債権として認識されるとともに、入金予定日に債権金額と入金額の照合(いわゆる「消込」)が行われます。これは、A社でいう① POS データと②売上金データの照合に近い統制行為と考えられます。
 このように、B to Bが中心の一般的な会社の場合、登録データを業務フローの中で、順次在庫データと照合し、現金と照合することで会計数値の確からしさを担保しているといえます。これに対してA社の車内販売においては、ほぼ同タイミングで上記の照合を実施することとなるため、差異原因の特定の難易度が高くなる状況になっていると考えられそうです。すなわち、最適な売上集計方法として、特定の売上集計方法があるのではなく、登録情報を在庫データや入金データと照合して精緻に近づけるプロセスを経て売上データを作成する必要があるのです。

A社の調査方針
 検討の結果、POS 売上を主軸のデータとし、売上現金データとの照合、在庫データとの照合を行う方向性となりました。ただし上記の通り、A社においては差異が同時多発しており、それぞれの差の原因を特定し解消することは容易ではありません。そこで売上差異の原因をA社内の内部要因と不正要因・外部要因に分け、内部要因の割合が高い POS データと在庫データにつき、差異要因を潰し込むと同時に、両データ間の照合を行うこととしました。そして、最後に外部要因が多い売上現金データと POS データとの照合を行うこととしました。これは、差異の要因が POS 登録誤りや在庫のカウントミス等内部要因の場合、内部の他の資料等で発見することが可能であるのに対して、売上金の横領や釣銭の渡し間違い等の不正要因・外部要因は、他の資料等で発見することは容易ではないためです。
 そして在庫差の売上と POS 売上の差異を車両別に分解し、詳細の要因を把握するとともに、各売上データの精度を高める所作を同時に実施しました。具体的には、POS データの車両ごとの登録については、積み込む商品が統一化されていることから、販売員による登録を廃止し、本社で画一的に登録することとしました。また車内販売終了後の検品については精度を高めるために、倉庫担当者の検品前に担当販売員が棚卸を行い、倉庫担当者はたな卸結果のチェックをすることとしました。加えて POS データの精度を上げるため、同一商品がほぼ同タイミングで登録された場合には、二重登録の可能性が高いため、読込音をボリュームを上げて注意を喚起し、販売員が読み込むバーコード表については商品画像を表示するなど、読込誤りを最小限にするよう配慮しました。
 上述の対応により POS 売上データと在庫売上データの差異が少額となったところで売上現金データと照合を行ったところ、特定の販売員の差異が多額となっていることが判明しました。そこで当該販売員について詳細調査を行ったところ、新たな事実が判明しました。

A社の調査結果と顛末
 上記の特定販売員は車内販売の際に、A社商品のみならず、自身で仕入を行い自身が仕入れた商品の販売も行っていました。自分自身で仕入れた商品の売上は、自身の売上金として処理するつもりだったのでしょうが、多くの商品を販売する中で売上金がA社の売上金と混在し、またA社商品の POS の読み取りも不正確となった模様でした。そして意外なことに、当該販売員はA社で厳重注意は受けたものの比較的軽い処遇となりました。これについて後日経理部長に経緯や理由を教えて頂いたところ、本件はA社取締役会でも議論・討議され、最終的に下記理由で今回の処遇となったそうです。
 「本件不正は極めて悪質ではあるが、当該販売員の営業成績はA社内で抜群である。そもそも最近の車内販売における他の販売員は、商品を販売する意欲に欠ける。社内の声掛けもなく、車内販売で移動するスピードも速すぎて、お客様が声がけをするタイミングを逸している。それに対して今回不正を行った販売員の不正事態は許されないものの、販売手法や意欲については他の販売員も学ぶべきポイントが多い。」
 不正を働く従業員は、一般的に野心も強く、不正のリスクはあるものの、会社と同一のベクトルを向いていれば、会社に大きな利益をもたらすということでしょうか。我々としては内部統制の存在意義も考えさせられる事案でした。